satonoblogの日記

satoとnobuの2人で趣味やそれぞれの考えを綴っていきます。

【story1】ペンギンのトライアングル[nobu]

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第一章 ピカピカのトライアングル

辺りは一面の海

大きな氷の山と、小さな冷たい島がぷかぷかと浮かんでいる

 

聞こえるのは氷を踏む音、波の音、カモメの鳴き声

 

海に入ると、水の音、他の生き物の話し声、自分が生きている音が聞こえる。

 

ペンギンは色んな音の聞こえるこの氷の世界が大好きだった。

 

色んな音を知るうちに

「この海の先ではどんな音がきこえるんだろう」

そう思うようになった

 

氷と海の間で耳を澄ませる

まだ聞いたことのない音を探して

 

耳を澄ませていると、足元で聞いたことのない音が聞こえた

「カン」「キン」「コン」

 

ペンギンは聞いたことも無い音に驚き、そしてその音の正体を知らずにはいられなかった

 

足元を見ても何も無い

 

ペンギンは海の中に入り、音の正体を探す

 

水の音、他の生き物の話し声、自分の中で大きくなる音がうるさい

 

しばらく探していると、また「キン」と聞こえる

 

ペンギンは、音の正体であるトライアングルを見つけた

 

嬉しさが止まらなかった

 

聞いたことの無い音が出るもの、見たことのないもの

 

そして両親や友達も知らないだろうものを見つけた嬉しさ

 

新しい音、美しい音を聞かせてあげられる嬉しさ

 

自分だけが出すことのできない音を手に入れた嬉しさ

 

ペンギンはすぐに海からあがり、

両親のもとへ向かう

 

ペンギンはトライアングルを氷で叩きながら、

嬉しそうに話す

 

両親は大変感激した

 

今まで聞いたことのない音、とても綺麗な音を

子どもが奏でている

 

「お前はすごい子だ。その笑顔とその綺麗な音で、これからも私達の自慢のこどもでいてくれ」

 

ペンギンは、自分は愛されているんだと思うことができた。

 

嬉しくなったペンギンは、次は友達のウミガメに会いに行く

 

ウミガメは驚いた

 

ペンギンの二倍は生きているが、聞いたことの無い音をペンギンが奏でている

 

「お前はいつも私を楽しませてくれる。ありがとう。これからも親友でいてくれ」

 

ペンギンは、自分はウミガメニとって大事な存在なんだと思うことができた

 

ますます嬉しくなったペンギンは、カモメ達を集めて演奏会を開いた

 

「今から君達にとっておきのプレゼントをするから集まってくれよ」

 

カモメ達は驚いた。

 

カモメ達は波の中で奏でられるトライアングルの音を聞いたことはあった

 

しかしペンギンと氷の奏でるトライアングルの音は、それとは別物であった

 

カモメ達は音色を聞いて嬉しくなって踊りだす

 

「お前は音を奏でるのが上手だな。また演奏会を開いておくれ」

 

ペンギンは、自分の演奏が褒められ、得意気になった

 

トライアングルのおかげで

ペンギンは両親から愛され

ウミガメから大事にされ

カモメ達から褒められた

 

ペンギンのトライアングルはピカピカと光り輝いている

 

第二章 さび付いたトライアングル

ペンギンはピカピカのトライアングルをとても大事にした

 

寝るときは枕元に置いて寝るし、毎日演奏の練習を欠かさない

 

ある日、ペンギンが練習をしているとアザラシが話しかけてきた

 

アザラシは正義感が強い

 

「君のトライアングルは確かに綺麗な音をだす」

 

「しかし、その音はこの氷の世界にはふさわしくない」

 

「氷の音、波の音、カモメの鳴き声。それがこの氷の世界の平和の音だ」

 

「君のトライアングルはその平和を乱しているからもう演奏しないで欲しい」

 

ペンギンはひどく落ち込んだ

 

「わかったよ、そうしたら、トライアングルのてっぺんの角を叩くのをやめるから、それで許してくれないかい?」

 

「君がトライアングルを好きなことも、とても大事にしていることも知っている。それで許してあげるから、約束だよ」

 

 

「ありがとう」

 

ペンギンは、両親が一番褒めてくれた、トライアングルのてっぺんの角を叩くことができなくなった

 

てっぺんの角は次第にさびていった

 

仕方なく二つの角で演奏していると、シロクマが話しかけてきた

 

シロクマは自尊心が高い

 

「君のトライアングルより、僕の歌の方が大きな音がでるし、みんなを楽しませることができる」

 

「君のトライアングルは僕の歌に劣るのに、演奏する意味があるのかい?」

 

「僕の歌の邪魔になるから、もう演奏しないで欲しい」

 

ペンギンはひどく傷ついた

 

「わかったよ、そうしたら、トライアングルの右下の角を叩くのをやめるから、それで許してくれないかい?」

 

「あと一つしか叩ける角がなくなるんだろう?音が小さくなるのならそれで許してあげるから、約束だよ」

 

 

「ありがとう」

 

ペンギンは、ウミガメが一番好きだった、トライアングルの右下の角を叩くことができなくなった

 

トライアングルのてっぺんと右下の角を叩くことができなくなった

 

二つの角はどんどんさびていった

 

仕方なく残り一つの角で演奏していると、シャチが話しかけてきた

 

シャチは嫉妬心が強い

 

「君のそのトライアングル、音色を聞いているととても気分が悪くなる」

 

「君は最近ちやほやされているようだけど、それはそのトライアングルのお陰であって、君がすごいわけじゃないんだよ」

 

「僕はそんなものなくたってたくさんの友達がいる。君はそれがないと何もできないのかい?」

 

「とにかく気に障るから、もう演奏しないで欲しい」

 

ペンギンは涙を流した。

 

「わかったよ。もう演奏しないよ。」

 

「分かればいいんだよ、そんなもの、何の価値もないんだ。早く捨ててしまいな」

 

「演奏はしないから、せめてこのトライアングルを持っていることは許してくれよ」

 

「そのさび付いたトライアングルの何がいいのか分からないな。好きにすればいいさ。ただし、演奏はしない、約束だよ」

 

「ありがとう」

 

ペンギンは、カモメ達が楽しんだ左下の角も叩くことができなくなった

 

トライアングルが、ペンギンの涙を受け止める

 

まるでペンギンをなぐさめるように

 

トライアングルはさびついてどんどんと黒くなっていく

 

ペンギンの悲しみがトライアングルに移っていく

 

ペンギンは、黒くなったトライアングルを見て自分を責めた

 

僕が拾ったせいで、こんなに黒くなってしまった

 

僕が拾ったせいで、音を出すことができなくなってしまった

 

このトライアングルを拾ったせいで、こんなに悲しい気持ちになった

 

このトライアングルを拾ったせいで、こんなに傷ついた

 

しだいに、自分を責めていた気持ちはトライアングルを責める気持ちへと変わっていく

 

ペンギンのトライアングルは、さび付いてしまった

 

両親から愛されたときの温かい気持ちも

 

ウミガメから大事にされたときの嬉しい気持ちも

 

カモメ達から褒められたときの得意な気持ちも

 

すべてさび付いてしまった

 

トライアングルは海の深く深くへともぐっていく

 

ペンギンは海と氷の間に立って耳をすませる

 

氷の音と、波の音と、カモメ達の鳴き声だけが聞こえる

 

おしまい